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教養ということが今日1つの問題とされている。主に文学の世界に於てであるが、勿論そこに局限される理由はないし、またあってはならない。文学の世界に於ては教養は特に作家の教養という形で日程に上っている。実は読者の教養というものも問題であったので、大衆文学と純文学との比較検討の類は1部分この問題に基いていたわけだが、夫が今日、特に作家の教養という外形で、教養という問題1般への緒口となっているのだ。

運転手がこんなにはつきり島の見える日は、1年の中にも珍しいといつて居りました。神社へお詣りしますと、偶然にも恰度その日が長年卿の祥月命日であると神主から聞かされ、私はそこでも何か因縁のようなものが感じられるのでした。ところが神社は平常の通りで、何1つお祭りのような様子が見えませんから、不審に思つて訊ねますと、大祭は桜花の咲き競ふ4月〇5日に執行することになつているとのことでした。

『どうかなさったのですか。めっきり元気がありませんね』

お君は監獄の中にいる夫に、赤ん坊を見せてやるために、久し振りで面会に出掛けて行った。夫の顔は少し白くなっていたが大変元気だった。お君の首になったのを聞くと、編笠をテーブルに叩きつけて怒った。それでも胸につけてある番号のきれをいじりながら、自分の子供を眼を細くして見ていた。そして半分テレながら、赤ん坊の頬ぺたを突ッついたりして、大きな声を出して笑った。

子供の方は場合によっては案外試験を気にしていないかも知れない。親達がある学校を受けろというから受けて見るので、受験責任者は親達の方だと思っている子供も少なくないかも知れない。とに角1等心配しているのが親達だということは平凡なようだが見逃すことの出来ない1つの事実である。そうしてこの事実は年と共に著しくなっていく。この頃では中等学校の入学試験ばかりではなく、帝大の入学試験にまで、大きな子供[?]につきそってやって来る母親があるそうだが、これは何も帝大の入学試験が困難になって来たからではないので[以前は高等学校の入学試験でさえ、父兄がついて行くなどという珍風景は見られなかった]、それだけ受験責任者が、受験者自身から父兄乃至親達に、即ちまた家庭そのものに移行したことを示すものであり、それが中等学校の入学試験から段々と高いところにまで及んで、遂に最後に大学の入学試験にまで現われたに過ぎない。こういう意味に於て、最近の試験地獄は、親達の責任に移行しつつあるのである。

防空壕の跡らしい黒い庭土、こんもりとした庭木、黄葉しかけてる高い銀杏の樹、ちらちら見える家並、その向うの焼け跡らしい広い空間、どこからか聞えてくる雀の声、それらに、太陽の光がいちめんに降りそそいでいた。

島崎氏は私が物忘れしているのを訝しがるような口吻でいはれました。

『あの牛乳は上等でしたね。』

われわれの歴史がたどりうる5千年の歴史の背後に、人類のことばを発見したという、より広い歴史をたどるならば、われわれは〇万年の、より深い歴史を顧みなければならなくなるであろう。

俺も窮余の策を発見した。ノートにめちゃくちゃに書きつけた小説断片があるのを、思い出したのである。他日何かに利用するつもりのなぐり書きで、単独の使い物にはならない。しかし、アプレ・ゲールのデフォルマシオンとして、案外、読者の眼をごまかせるかも知れない。内容が古くさいのは何とも致し方ないが、これとても、1種の皮肉として通用しないとも限らない。1人の男をめぐって、その細君と馴染みの芸者との間の、とんちんかんな変梃ないきさつの事実メモだ。

『君は残っておれよ。君がいないと、どうも話が面白くない。』

ではこれはどういう区別なのか。文学的に優れた者と文学的に駄目な者との区別は。……教養−『教養』−の問題がそこにあるのだと私は思う。

これは文芸の世界に於てばかりではなく、ビジネススタイルの領域に於ても大して変りがない。変りがないどころではなく、ビジネススタイルの世界などではモラルというものの問題が今日有っている意味に就いて、1般には殆んど何の感覚も持っていないらしい。モラルや道徳は倫理学か道徳学の課題だと考えているらしい。そうなるとこれは古い寝ぼけた題材にしか過ぎないというわけだ。ビジネススタイルは独りモラルに就いてとは限らぬが、時代が見出した根本観念をば、理論的カテゴリーとして使用に耐えるように仕上げることを、何より大事な役目とする筈なのに。

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